2023年8月10日
インボイス・免税事業者である取引先に2割特例の活用を打診するのは可能か
先日に引き続きインボイスに関する配信として、今回は2割特例に関する実務的な対応をお伝えさせていただきます。
なお、「インボイスを取得する予定がない事業者(消費税の免税事業者)」の方は直接的な影響がないため、本日の内容はそれほど気にされなくて結構です。
■2割特例の概要
・免税事業者はそもそも消費税を納める必要がない。
・ただ、取引先との関係からあえて課税事業者となって納税するという選択が必要になるケースも出てくる(免税事業者のままだと取引先の負担増加になるため)。
・免税事業者が自主的に課税事業者になる場合、消費税の計算や納税額の負担軽減のため、「受け取った消費税×20%」だけを納めれば良い。というのが2割特例。
→結果、当面の間は2割特例を使って納税額を少なくすることができ、かつ、経費を支払う方は100%消費税を控除することが出来るため負担が増えずに済む。
なお、2割特例を使える期間ですが、法人は令和8年9月30日まで、個人事業主は令和8年12月31日までの期間限定の制度です。
■免税事業者である取引先が2割特例を使って課税事業者になるという選択をするか?
・取引先がインボイスの番号を取得し、自社には影響がない(消費税を全額控除できる)のが理想。
・但し、例えば下記理由により免税事業者である取引先がインボイスを取得して課税事業者になる。というのは現実的には少ないのでは?というのが私の感覚です。
①取引先にとっては消費税の納税が生じる分だけ収入が減るし申告の手間も出てくる。このことに対する拒否反応から。
②そもそもインボイスに対する理解が深まっていないことによる拒否反応から。
③そのインボイスを取得していない取引先が自社にとって大事なポジションを担っている場合、取得を依頼することによって離れてしまう懸念があるためこちらから依頼はしづらい。という自社の仕事を円滑に行っていくための考えから。
上記③の場合、「単純に物を購入するだけ」ということであれば他の取引を探すことで対応できるかもしれませんが、人的役務などの場合はなかなか難しいですよね(逆に「それならもう仕事をしないから仕事を振らないでくれ」と言われる方がダメージは大きいですし)。
結果、取引先である相手方が免税事業者の場合、自社で検討すべきことは下記いずれかでしょうか。
④自社の納税額が増えることはやむを得ないと割り切る。
⑤自社の負担が増える分、こちらも苦しくなるため可能な範囲で価格交渉を行ってそもそもの単価引き下げを行う。
但し、上記⑤については③のカッコ書きと同様の懸念がありますので、理屈は分かっているけれども④を選択せざるを得ない。というケースが多く出てきそうな気がしております。
④の場合、経過措置により今後3年間は80%の控除ができますが、その後3年間は控除が50%まで減少し、経過措置終了後は全額控除できなくなります。最初の3年間だけを考えずに、将来的に会社に与えるであろう影響も検討しておいた方が良いです。
■簡易課税との有利選択
今は免税事業者だけれども2割特例を使ってこれから課税事業者になろうかと検討される方がいらっしゃいましたら顧問税理士さんと打ち合わせをしてください。
(簡易課税とは年間の課税売上高が5千万円以下の事業者が選択できるもので、ざっくりのイメージですが建設業であれば受け取った消費税の30%を、サービス業であれば50%を、不動産賃貸業であれば60%を納めれば良いという制度です。実際に支払った消費税のバランスによって有利・不利が変わります)。
■補足①
私は令和5年6月開業なので今は免税事業者です。
数年間は免税事業者として消費税を納めずに体力をつけたかったのですが、やはり立場上インボイスを取得するという選択以外ありえなかったため既に番号を取得しています。おかげで課税事業者の方に負担を強いることはありませんので堂々と仕事をすることができます(笑)。
■補足②
補足①と少しかぶりますが、今までの消費税法は一定の場合を除いて「開業してから2年間は消費税を納めなくても良い」というイメージでした。今後、開業(又は法人設立)しても取引を円滑にするために最初から課税事業者を選択する。というケースが増えてくるかと思われます。
上記の2割特例は令和8年までの期間限定ですが、(簡易課税を選択して多少の負担は抑えられることも考慮したうえで)開業と同時に課税事業者を選択する事業者が増えてくるでしょう。
ちなみに、この2割特例については国税庁がパンフレットを出していますので一応リンクを貼っておきます。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/pdf/0023002-106.pdf
次回はインボイスに関する直接的な論点ではなく、そこから波及する下記論点(税務調査に関することなど)をお伝えしたいと思います。
・経費について3万円基準が廃止。税務調査によって(特にカード利用時の領収書がないことによる)消費税の否認(納税額の増加)がないよう全て受領と保管を。
・名刺交換時に番号交換も必要?請求書が届いてからのトラブルを避けるために。
・免税事業者との取引が多い場合(特に建設業)、一人親方などへの外注費に対する調査が増えるか?外注費or給与の論点で。
札幌で税務顧問や相続税について税理士をお探しの方はぜひお声がけください。
佐藤友一
投稿者プロフィール
代表税理士 佐藤有
税金のことはもちろんですが、「経営全般におけるプロフェッショナルとして経営者様と共に存在すること」「経営者のパートナーとして将来を見据え、苦楽を共にしながら経営内容を改善させていくこと」が役割だと考えております。札幌で税務顧問や相続税について税理士をお探しの方はぜひお声がけください。->